空手部OBOGインタビュー (第3回)

空手部を卒業されたOB・OGの方々にインタビューをする本企画。第3回の今回は、平成11年卒業生の小森久副監督にお話を伺いました。

聞き手:空手部広報担当 文学部3年 髙原葵 (長野県松本深志高等学校出身)

Q1.まずは自己紹介をお願い致します。

平成11年卒業で現在空手部副監督をしています小森です。法学部政治学科出身、現役幹部時代は副将を務めておりました。現在は本部道場松濤館で専任指導員として、火曜日夜の一般門人クラスを担当しつつ、政府系金融機関である日本政策投資銀行に勤務し、ファイナンスやナレッジを活用したお客様の課題解決を通じて、社会の持続的成長へ貢献しています(貢献しているつもりです笑)。

Q2.空手部にはどのような経緯で入部されましたか?

高校時代は柔道をしていましたが、組んで勝負の柔道では体格差や力の差がもろに反映されてしまうこと、「小よく大を制す」とは言いますが、中々マンガの世界の主人公の様にはいかない現実を思い知り、違う道を探していました。

また、私は附属高校出身でもあり、一般受験をしないで大学へ進学したことに関し、勉強でついて行けないのかもしれないという劣等感と、同じ学部の友人に大学の勉強で負けたくないという反骨心を内に秘めておりました。

更には、高校3年間を振り返った際、真剣に何かに打ち込んだと人に誇れるものがない自分自身がいることに気づき、大学4年間では一般的な大学生活とは違うことに取り組み、卒業後の進路は自分の実力で掴み取ろうという気持ちを秘めて進学したという背景がそもそもの経緯です。

このような背景から、スポーツ推薦でなくても入部可能な体育連盟の部活を探していた、ただし1年365日練習では学校の授業が疎かになってしまうので文武両道も可能、出来れば体格差に関係なく対処できる可能性のある武術、という条件に合致するところが正に中大空手部でした。直接的なきっかけは、入学当時はまだモノレールがなくJR豊田駅からバスに乗り、正門の近くのバス停から正門の坂を登る最初の一歩目で空手部のビラを渡されたことが大きな出会いです。

Q3.空手部に入って良かったこと、もしくは現在空手を続けていて良いと感じることは何ですか?

空手部に入って良かったと思うことは、4年生が一番稽古していたことでした。一般的には最上級生は威張っていたり、試合で活躍している人が一番偉かったりするものですが、我が空手部は試合がない分、上級生ほど稽古に励み、下級生よりも色々な意味で強くなくてはならないという見えない規律が存在していたことです。

また、入部してみて実際勉強する時間も確保でき、この原稿依頼を受けて改めて大学から卒業成績証明を取り寄せたところ、取得した144単位中、118単位でA評価、18単位でB、8単位でCと思ったより良い成績を修めることが出来ていました(笑)。

空手の稽古に関しても、毎日稽古に休まず参加した結果(だけではない努力もしたつもりですよ笑)、3年生の後期審査会で当時の師範であった廣西先生から四段を頂きました。

就職活動に関してもバブル崩壊後の就職氷河期の中、当日第一志望であった東京三菱銀行から内定も頂き(その後結局転職してしまいましたが笑)、既述の劣等感を払拭すべく在学中に何かに真剣に打ち込むと決心した思いを、ある程度形にできたと思っています。

また、現在でも続けていて良かったと思うことは、空手の組手経験はビジネスコミュニケーションへ応用できること(全ては、調子、拍子、間合いの駆け引き)、卒業後も継続して稽古を続けたことで学生時代には分からなかった稽古の奥深さが開けたことです。

心が変われば態度が変わる

態度が変われば行動が変わる

行動が変われば習慣が変わる

習慣が変われば人格が変わる

人格が変われば運命が変わる

運命が変われば人生が変わる

私は空手がきっかけで色々と人生が良い意味で変化したと思います。

Q4.社会人として働く中で、空手部で学んだことが生きる場面などはありますか?

社会人として働いていく時には、受験勉強と違ってこれが答えだといものがありません。現状を認識のうえ何が課題であるのかを見出し、解決するための糸口を探す努力が必要です。これが正に松濤會の空手で学んだことであり、試合がないからこそ、稽古を通じてどんな自分になりたいか、どんな空手を体現したいかを自分で追い求め、実現するためにはどう稽古すれば良いかを追い求めることは、社会人生活あらゆる場面で応用可能です。

Q5.ご自身の稽古の際、特にどんなことを意識して稽古をなさっていますか?

型稽古を通じて、どれだけ自分の引き出しを増やしていけるかということの追求です。つまり、型とは一つ一つの動きの順番が決まっているわけであり、あらゆる事に対応出来るようにはなっていないかもしれませんが、標準的な解釈を応用して可能性を広げるすることはできると思っています。

また、その拡大解釈を実際に組手で体現可能かどうか、実験することもある程度可能だと考えています。基本の動きと型、組手は決して別々のものではなく、シームレスに行き来できるものであるべきと考えています。

一方で、松濤二十訓にもある通り、「実践は別物」であり、基本の動きに囚われない自然な動き、いざと言う時に心が落ち着いた状態でいられることを意識し、様々な場面で対処できるような心と体、第六感も含めた感性を養うような稽古の有り方を目指しています。

Q6.小森先輩には現在副監督として現役の指導をして頂いています。後輩の指導にあたり、何か意識されていることはありますか?

卒業後、社会人になってからもずっと稽古を続けて来られた影響もあって、様々な人といろんな稽古をさせて頂きました。一方で色んな人から様々なアドバイスやご指導、経験したことのない価値観の違いを知って、思い悩んだこと、相手の言っている意味がわかないことも多々ありました。

そんな経験から、学生の皆さんが誤解し易いこと、先生や先輩方が何を言っているのか分かり難いと思われるところを過去の経緯や変遷を踏めて通訳しながら指導しているつもりです。

また、稽古の場は指導者が答えを教える場ではないと思っています。あくまでその時の指導者が稽古の「叩き台」を提供し、実験してみて、より良い方法を見出す場であるべきだと思っています。

その意味で、学生だけの稽古では思いつかないであろうこと、私が学生時代には教わらなかったその先の知識や経験を踏まえた「叩き台」を提供しているつもりです。

ぜひ学生の柔軟な発想で物事を捉えて、より良い稽古方法へブラッシュアップして頂きたいと思っています。

以上、小森副監督へのインタビューでした。