空手部OBインタビュー(第11回)

空手部を卒業されたOB・OGの先輩にインタビューする本企画。第11回目は令和4年卒業生の森谷渉之介コーチにお話を伺いました。

聞き手 : 理工学部3年 橋本健太郎(神奈川県立元石川高等学校)

Q1:まずは自己紹介をお願いします 。

令和4年卒の森谷です。今年度よりコーチを務めさせていただくこととなりました。現役幹部時は副将と広報を兼任しており、第6回OBインタビューの大泉とは同期です。

生まれも育ちも北海道で、函館ラ・サール高校を卒業後、中央大学理工学部応用化学科に入学しました。卒業後は同大学院へ進学し、セラミックスに関する研究を行っていました。博士前期課程 (修士課程) を修了後、化学系のBtoBメーカーに就職し、2025年現在は研究開発職として働いています。

Q2:なぜ空手部へ入部しましたか。

武道空手に興味を持ったからです。

私は元々、伝統派空手(謂わゆる競技空手)の一派である和道流の空手をやっていました。高校生まで続けていましたが、幼少期から全国大会に常連で出場している選手には中々敵わない上、大学に空手のスポーツ推薦で進学したような人達とは更に差がつく一方だと感じていました。併せて、12年も続ければもう十分かなという気持ちもあったので、大学では新しいことに挑戦してみようかなと漠然と考えていました。

そんな中の新歓で、「試合は行わない武道としての空手」という、自分にとっては新鮮で珍しい空手をやっている中大空手部の存在を知りました。単純に自分がやってきた空手とどう違うのか気になりましたし、競技空手の基本や形と、自由組手の間には乖離があるように感じることもあり、「試合のための動きではない」というのも、これはこれで面白そうだなと感じました。また、試合がない≒自分のペースで活動できそうとも感じたので、一般的に忙しいと言われる理系でも無理なく続けられそうだなと思ったのも理由の一つです。

ただ、最終的に入部届を書いたきっかけは、新歓で声を掛けてくれた松尾先輩(第5回OBインタビュー)の話に乗せられたことと、新歓時の部の雰囲気が良いと感じたことでしたが…(笑)

Q3 : 当時は茗荷谷や後楽園キャンパスでの活動も無い中で、理工学部ならではの苦悩やエピソードはありましたか?

私が入部した頃には、既に本部道場を借りて継続的な稽古体制ができていましたし、私が学生時の監督である遠藤先輩や加藤先輩をはじめとすると先輩方が、時間を縫って本部道場で指導してくださったため、想像されているよりも質的な意味での稽古環境にはとても恵まれていたと思います。

ただ、稽古量の確保には苦労した記憶があります。現在の都心キャンパスでの活動は、複数施設を利用することで改善しているとは思いますが、当時は本部道場のみで活動していたことから、利用時間の関係上、平日の道場での稽古量は 恐らく週2~3時間程度とかなり限られていました。

自身の稽古量に関しては、土曜練後に同期と残って稽古したり、たまに本部道場の一般部稽古に混ぜていただいたりすることで、ある程度調整することができていたと思います。

一方、授業の関係で平日稽古以外参加できない後輩の稽古量確保方法には悩みました。週2~3時間の稽古時間だけで色々吸収してもらうには限界があったので、例えば型の順番は動画で覚えてもらい、道場では解釈や割稽古をする等、道場外にいる時間を使ってもらう方法をとっていました。今思えば他にも出来たことがあったな…という気もするので、主体性に任せるような方針であっても最後まで続けてくれた後輩には感謝です。

Q4 : 大学院への進学を決めた理由を教えてください。

修士として就職した方が良いと考えたためです。

理由としては2点あり、1点目は元々研究や開発というものに興味があったからです。

私は高校時代、「文系科目の方が得意だけど、文系に進学しても何をするかよく分からないし、理系科目の方が面白そう」という理由で理系を選んだ人間なので、The理系職な研究職や開発職に対して、面白そうだなという興味は持っていました。そのため、一般的に研究職や開発職に就きやすいとされる修士学生として就活をしようということで大学院進学を選びました。そこで研究は違うな…となっても、その後の進路を考える上では大きな収穫だと思いますので。

もう1点は、就職か進学を決めるタイミングである学部3年が新型コロナウィルスの流行始めと被ったことです。大学は勿論、就活イベントも軒並みオンラインとなり、企業によっては例年通りの採用が行われるかどうかも不透明な状況でした。

そのような背景から、大学院で専門性を得てから就職した方が良いのでは?という考えが、私含めあったように思います。これは進学の直接的な理由ではないですが、後押しする要素ではあったと思います。

Q5 : 活動の中で最も印象に残っていることを教えてください。

かなり曖昧な表現ですが、「同期と色々工夫して活動したこと」でしょうか…。

先述の通り、我々が学部3年になるタイミングで、新型コロナウィルスによる各種規制が始まりました。3年前期は道場での活動もなく、合宿も2年夏が最後、会場に集まっての演武大会や支部訪問など、他団体との関わりもほとんどない状況でしたので、この手の質問で回答しやすいイベントの記憶があまりないのが正直なところです。(笑)

だからこそなのかもしれませんが、同期と色々話し合いをした記憶が多く残っています。「対面で接触できない中、どうやって新歓を行おうか」「道場使用許可が出ても中々稽古が始まらないから、自分たちで稽古を始めよう」「強化稽古では準備・本稽古をどんな内容にすれば部全体のレベルアップが図れるか」「授業期間だけでは稽古回数が不足しているから、夏休み中に自主稽古用に体育館を借りよう」等、当時の縛りの中で、できることを模索しながら活動した経験は印象に残っています。

あとは私が1年生時に参加したきり、コロナ等で開催出来ていなかったナイトハイクを企画したり、その下見を兼ねてに前週に同期と昼間にハイキングにいったり、真面目な場面でも羽を伸ばす場面でも全力で取り組む同期達だったからこそ、規制の多い期間でも楽しむことができたのかなと思います。

Q6 : コーチとしてのお声がかかった時の感想と、引き受けた理由を教えてください。

「まだお声掛けいただけるんだ」というのが第一の感想です。特に卒業後2年半は数ヶ月に1回しか道着に袖を通すことができず、動きも鈍っていましたので。

実は卒業前にも学生コーチに興味はないかというお話をされたことはありました。(どこまで本気で仰ってくれていたかは置いておいてですが…)

当時は大学院進学後に稽古時間をどこまで確保できるか分からなかったですし、就活後にどこで何をしているかも分からず、空手部卒業後の自身の状況が不透明過ぎるという懸念があったため、引き受けようとは思いませんでした。

そんな中、今回引き受けた理由ですが、一つは上記の懸念事項が社会人になって解消されたことがあります。社会人になって大学院時代より稽古時間を確保しやすくなりましたし、会社の初期配属が関東ということもあり、道場にも通いやすい環境になりました。

理由は他にも色々ありますが、微力ながらも現役の皆さんが松濤會の空手を面白がる一助になれないかという考えもあります。私自身、理系×他流派経験者という中大空手部の中では少数派のバックグラウンドだと思います。だからこそできる伝え方や視点もあり、僅かながら空手部に還元できるものがあれば良いなという思いです。

Q7 : 最後に現役部員に向けてメッセージをお願い致します。

空手に限らず、色々なことに興味を持って面白がってみて欲しいです。

松濤會の空手で言えば、明確な正解や、定量的な指標がないという特徴があると思います。だからこそ自分なりの目標や指標を持つことが出来ますし、明確な正解がないからこそ「こういう考えはどうだろう」というある種の自由度があり、適切な言い方かは分かりませんが、遊ぶ余地が残されているのかなと思います。このような明確な正解がないものに取り組み、その過程を楽しむ経験を学部生時代からできたのは良かったと感じますし、学部卒業後にもこの経験が活きているなと思います。

なので現役の皆さんには、空手を面白がるという観点も持ってみて欲しいと思います。折角入部して4年間単に続けるだけでは勿体ないので、明確な正解のないものに全力で取り組む練習としてやってみて欲しいです。これは空手以外の何にでも言えることだとは思いますが、私もコーチとしてその手伝いができれば良いなと思っています。