空手部OBOGインタビュー(第一回)

 空手部を卒業したOB・OGの方が社会に出てどの様に活躍しているのかインタビューを掲載します。初回である今回は、平成元年卒業生でもある加藤博文監督にお話をお伺いしました。

※インタビューは2020年3月実施

聞き手:空手部広報担当 商学部4年 新井喜久 (青稜高等学校出身)

Q1まずは自己紹介をお願いします。

 平成元(1989)年に経済学部を卒業し現在55歳です。出身校は福島県立湯本高校です。2年間大学受験に失敗し浪人したので、入学した時は既に20歳でお酒も飲めるようになってました(笑)。

 4年時には主将を務め、卒業後最高段位の五段を頂戴しました。会社に勤務してからは大阪や広島転勤で8年間東京を離れてましたが、現在は日本空手道松濤會(1930年設立)理事と本部道場松濤館(1939年創建)専任指導員も務め空手道とのご縁は続いております。この度OB総会で監督に推挙され、これまでお世話になった空手部への恩返しのつもりでお受けした次第です。

Q2現在はどの様なお仕事をされていますか?

 卒業後、三菱地所に入社し、ディベロッパーとして住宅開発に携わって来ました。2015年より三菱地所グループで新築注文住宅やリフォーム、土地活用等の総合請負事業を展開している三菱地所ホームの代表取締役社長に就任し6年目を迎えました。年商350億円、社員数500名の会社ですが、顧客も社員も取引先も、関係する全ての人が幸せになれるよう日々努力してます。

Q3どうして数ある部活動の中から空手部を選択されたのですか?

 写真の左側に写っている副将の三石君(現中大職員)と経済学部の同じクラスで誘われたのがきっかけです。2浪し体力不足も感じていたので体を動かしたかったのが動機で、中学までは野球部、高校はバンドをやったりバイクに乗ったり部活動をすることもなくフラフラしてましたが、知り合いからフルコン空手も習っていたので、大学では本格的に空手を習いたいと思ったのと、どうせやるなら体育連盟でやりたいと思い入部しました。

Q4中央大学空手部の空手とオリンピックなどの競技に採用されている空手にはどの様な違いがあるのですか?

 空手道に対する価値観、世界観、歴史観が違うので比較すべきではありませんが、この違いを良し悪しとしない前提で私なりの考えを話します。

 現在、空手というとオリンピック競技に採用されている全日本空手道連盟の所謂ポイント制寸止め空手、極真空手のようなフルコンタクト空手、そして中大空手部のような所謂武道空手に大別されます。寸止めもフルコンも一定のルールに基づいて勝敗を競い合うので、競技スポーツであり我々の武道空手とは全く別物だと私は考えております。

 それでは中大での空手はどういうものかと言うと、基本技や型を中心に稽古を行い、試合競技はせず、組手は約束組手、基本一本組手、自由一本組手等武道的な身体操作により、効く突きや蹴りを追求し急所に狙いを定め一撃で仕留める技の攻防を行います。併せて空手を上達させるために棍や剣の稽古も行います。そのような自分を追い込み極限の中で稽古を積み重ねることによって武道特有の身体操作を身につけ心の修養をするのが武道空手だと考えております。型の中には様々な武道の身体操作を使った技が内在しており、想定外のスピードで相手の懐に入り込んだり、攻撃を抑え反撃することが出来るような凄い技が存在します。

 道場以外でこの空手の技を使うことは一生ないと思っていますし、競技スポーツではないので優劣がつくこともありませんが、それで構わないと考えてます。この空手がやりたくて中大を選んだわけでもありませんが、今となってはたまたま入った空手部がこのような空手で本当に良かったと思ってます。

Q5何故、試合を行わないのですか?

 空手部は「空手道に試合はあり得ない」という船越義珍師範の遺訓を守ってます。師範が遺された言葉ですので大切にするのは当然ですが、私自身としては師範が仰ったのだから守り続けるということではなく、何故そうなのかということを深く考えなければならないと思ってます。

 明治時代以降、日本武道も西洋化されスポーツ競技となり、勝ち負けを競い合うようになりました。世界中に空手を広めるという意義もあったと思いますので、それ自体は否定しませんが、先生の遺訓を守り、謙虚に稽古をする組織があってもいいと思ってます。武道の世界は勝ち負けを競う世界ではなく、人間としての生き方を教えてくれる世界だと思ってます。

 稽古とは文字通り「古(いにしえ)を稽(かんが)える」ということですから、部員にはそういう世界もあるということを認識し、稽古してほしいと思います。

 最近、NHKワールドJAPANという国際放送から取材要請があり、瀧田良徳師範や小森久副監督、高梨泰幸副監督とともに出演しましたが、海外では武道空手の精神性や身体操作に興味を持っている人が多いとのことで、今後益々注目は高まって来るものと思います。

「立派な空手部の伝統」中大の元総長学長で空手部顧問でもあった高木友之助先生から、空手部50周年にあたり寄稿して頂きましたので掲載致します。

Q6空手部に在籍していた事で成長できたことや学ぶことができたことを教えて下さい。

空手部というと上下関係が厳しく、いつも「押忍!」なんて言っているイメージがありますが、中大空手部は礼節はわきまえつつも、先輩後輩とも仲良く、本当にいろいろとお世話になりました。

 長谷川幸生部長、廣西元信師範、杉本文人監督の下、稽古も勿論ですが、人間力を高める深いお付き合いをさせて頂きました。時に稽古が辛く辞めたいと思った時もありましたが、卒業まで15人も残った同期にも支えられ何とか4年間を全うすることが出来ました。昨年残念ながら同期の勝又君が急逝しましたが、定期的に同期で空手合宿をやったり、家族ぐるみの付き合いも続いていて、今でも仲がいいです。

 いろいろ学びましたが、一番は相手を思いやるということです。究極の組手は相手と一体になることだと教わりましたが、日常生活でも心遣いがとても大切で、お茶を出したり様々なことを日頃から気を配って対処していく、そうしていると組手をやっても意識が変わってくる、そういう意識の変化や武道的な身体操作による技の変化も併せて、心も体も空手への取り組み姿勢が全く変わりました。

 初代師範の船越義豪先生は「正しく強く」ということをよく仰っていたようです。この短い2つの言葉に人生の生き方を感じますし、船越義珍先生の空手道二十訓の教えは空手だけではなく、現在でも仕事や日常生活など全てのことに役立ってます。

Q7監督就任にあたり抱負をお聞かせください。

 中大空手部の理念を改めて考えると、

「修文練武」

(学業をきちんと修め、併せて武道もしっかり学び心身ともに強くなること)

「正しく強く」

(船越義豪師範遺言)

「インテグリティ」

(誠実、真摯、高潔)

ではないかと考えてます。部員へのこの意識の浸透と実践が私の大きなミッションです。

 勿論そこには船越義珍師範の空手道二十訓という基本理念が存在します。そしてそのベースになるのが日々の稽古です。4年間という限られた時間の中で、いかにこの空手道の素晴らしさを伝えられるかということにこだわりたいと考えてます。

 具体的には、この稽古を通じて、心身ともに今まで出来なかったことが出来るようになることの喜びや感動を感じて貰いたいと思ってます。体をしなやかに整え、日常生活では意識出来ない肩甲骨や骨盤、股関節、膝の緩み等の身体操作を体感することにより、手先だけでは出ない、相手を圧倒する秘めた力を生み出すことが出来ますが、空手の稽古だけではなく、これらの動きをよりわかりやすく体感出来る棍の稽古も取り入れて行きたいと思います。

 空手部では棍を研究されていた船越義豪師範から高木丈太郎師範、柳澤基弘先輩と受け継がれ、瀧田良徳師範によって体系化され、活発に稽古をするようになりました。棍の稽古により、武道的な身体操作を理解実践することが出来、本来の目的である空手の上達に繋がるものと考えております。

 また空手の修養は心の修養でもあることから、その為の鍛錬として、剣の稽古が有効だと考えます。空手部の剣稽古は江上茂師範が稽古された親和体道や高木丈太郎師範が稽古をされた江戸柳生がベースとなっておりますが、先の先や後の先などは勿論、自分の内面や相手の心の動きを察知するために剣稽古は意義があり、空手の鍛錬において重要であると感じております。

そして、棍や剣の稽古をベースに今以上に組手の稽古量を増やしていきたいと考えております。組手を意識することで、『技の緩急、力の強弱、体の伸縮』に改めて気づくことができ、基本稽古、型稽古が空手体操にならず、より修練された技術に進化するものと考えております。

 それから大学生ですから、重要なのは卒業後の進路です。全OBOGも含め様々な形でサポートし、全員が希望する進路に進めるよう尽力したいと思ってます。一方、様々な企業の人事の採用担当と話すと、「いい大学を出ているのに学力がない、体育会出身なのに体力がなく根性もない」という声をよく聞きます。空手部卒業生に対してはそんなことを言わせたくないと思ってます。

Q8最後に新入生に対するメッセージをお願いします

 先のことは誰もわかりません。わからないからといって漫然と過ごしていたら、あっという間に貴重な4年間は過ぎ去っていきます。勉強やアルバイトに専念したい学生もいるとは思いますが、今後の人生は様々なことを両立をしなけば自分の夢を実現することは出来ません。

 仕事一辺倒ではダメです。仕事も一所懸命頑張りながら、親も配偶者も育児も、友人も地域貢献も大切にしていくことが人生を豊かにします。

 空手部は両立出来る環境が整ってます。そして空手は畳一畳分のスペースがあれば道具も要らず一人でも出来ます。大学生活の良き思い出だけではなく、その後の人生で大切な心身の健康をサポートしてくれる存在となります。

 私の目標は、この空手道の稽古により、心身を陶冶鍛錬した優秀な卒業生を社会に数多く輩出し、空手部OBOG達が様々な分野で活躍することによって社会貢献をしていくということです。

最後に私の好きな江上茂師範の言葉を送ります。

「永遠の今に生命を燃やし、輝く未来を開け」

 以上、平成元年ご卒業の加藤監督のインタビューでした。加藤監督は第一体育館二階の空手道場に定期的にいらっしゃいます。もっとお話を聞きたいと思った人は是非、道場に足を運んで下さい。

 部員一同、お待ちしております。